「歴史と誇りを背負い、仲間と共に」――鳥栖工業ラグビー部キャプテン・戸髙駿

鳥栖工業ラグビー部を率いるキャプテン・戸髙駿。
部員の多くが未経験ながら、彼が胸に抱くのは先輩たちが築き上げてきた伝統と誇りだ。
「新しい強豪に負け続けるわけにはいかない」――その反骨心を糧に、仲間と共に挑み続ける。
花園予選を前に、キャプテンが語ったのは、歴史を背負い未来を切り開こうとする強い決意だった。
鳥栖工業高校3年 戸髙駿
今シーズン、鳥栖工業ラグビー部を率いるキャプテン・戸髙駿。
部員の多くが未経験ながら、彼は伝統あるチームを引っ張る存在となっている。
先輩たちから受け継いだ誇りと反骨心を胸に、仲間と共に挑み続ける彼には、いったいどんな思いがあるだろうか。
「コミュニケーションがすべて」
「ラグビーは15人で戦うスポーツ。だからこそ仲間同士のコミュニケーションが一番大切なんです」
そう語る戸髙の言葉には、キャプテンとしての確かな信念がにじむ。部員数は決して多くない。むしろ少ないからこそ、一人ひとりとの関係性が勝敗を大きく左右する。
上下関係に縛られず、年齢や立場を超えて意見を言える空気を作ることを意識してきた。「フランクに接して、誰もが声を出せる雰囲気を大切にしているんです。もちろん言いにくいこともあると思いますけど(笑)」
その柔らかさとリーダーシップが、チームの支えとなっている。
苦しい時こそ「楽しむ」強さ
試合では、苦しい場面が幾度も訪れる。思うように試合を進められないこともある。しかし、そんな時にチームを前向きにするのがキャプテンの役割だ。
「勝とう、勝とうと焦っても、勝てない時はあります。だからこそ『楽しもう』と声をかけています」
ただ勝敗を求めるのではなく、プレーそのものを楽しむこと。結果だけでなく過程を大切にする姿勢が、
チームの雰囲気を和らげ、次の一歩へとつなげていく。
キャプテンとしての素顔
主将になったきっかけは周囲の推薦だったが、本人にとっても自然な選択だった。
「もともと人をまとめたり、声をかけたりするのが好きなんです。だからキャプテンをやらせてもらうことになりました」
ただまとめるだけではなく、時には寄り添い、時には背中を押す。その姿は、仲間にとって安心感そのものだ。戸髙の存在が、チームの精神的支柱となっているのは間違いない。
未経験者集団の挑戦
鳥栖工業ラグビー部の特徴は、なんといっても「未経験者が多い」ことだ。経験者はわずか1人。ルールを理解することから始めなければならない選手も少なくない。
「最初はルールを教えるのが大変でした。ラグビーって複雑なんです。でも、みんなが少しずつ覚えてプレーできるようになっていくと、1点に対しての喜びや想いがすごく伝わってきて。その瞬間が一番楽しいです」
努力を積み重ねた仲間がひとつの得点を喜ぶ姿は、どんな勝利にも負けない価値を持つ。
歴史と誇りを背負う自覚
勝ち星を積み重ねることは簡単ではない。それでも選手たちは諦めない。その理由を問うと、戸髙は少し真剣な表情を見せた。
「鳥栖工業には長いラグビーの歴史があります。先輩たちが築き上げてきたものを、自分たちが受け継いでいるんです。最近は早稲田佐賀のように新しい強豪も出てきていますけど、歴史ある自分たちが負け続けるわけにはいかない。だからこそ、反骨精神で頑張れています」
伝統と誇り。それは重荷ではなく、彼らに力を与える原動力となっている。
花園予選にかける想い
最後に、今シーズンの目標を尋ねると、彼の声は力強さを増した。
「花園予選で、早稲田佐賀に勝つことです」
未経験者中心のチームでありながらも、決して夢物語では終わらせない。その言葉には、これまで積み重ねてきた努力と、仲間を信じる強い気持ちが込められていた。
未経験者が多いという状況。しかし、それを悲観するのではなく、むしろ結束を強める要素に変えてきた戸髙駿主将。「楽しもう」という言葉は、どんな状況でも前を向き続けるための力強いメッセージだ。
鳥栖工業ラグビー部の挑戦は、これからも続いていく。
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