【2025全国高校野球 直前特別取材】佐賀北高校・本村祥次監督、母校を率いてふたたび聖地へ

佐賀北高校・本村祥次監督、母校を率いてふたたび聖地へ
ー「がばい旋風」の記憶とともにー
2007年夏、全国の高校野球ファンに鮮烈な印象を残した“がばい旋風”。その立役者・佐賀北高校が、再び夏の甲子園へと帰ってくる。チームを率いるのは、2012年に自身も佐賀北の一員として聖地の土を踏んだ本村祥次監督。母校を指揮する立場で、ついに掴んだ甲子園の切符。指導者として歩んだ6年間の集大成に、今どんな思いを抱いているのか。
佐賀北高校 本村祥次監督
ーーー「本当に行くんだ」と実感する日々
県大会優勝から約1週間。本村監督は、周囲の反響の大きさに驚かされながらも、着実に甲子園への準備を進めている。
「いろんなところで“おめでとう”と言っていただけるので、ようやく実感が湧いてきました。ただ、選手も私自身も、すでに気持ちは甲子園に向かっています。今はその舞台で戦うために、一つひとつ練習に集中している段階です。」
ーーー選手では見えなかった“甲子園の壁”
2012年の現役時代、自身も佐賀北の一員として甲子園に出場した。その経験が、監督となった今、また別の角度で胸に迫っているという。
「選手としては3年間で3回のチャンス。でも監督としては今回が5度目の挑戦で、ようやくその扉が開いた。選手の頃には気づかなかった、甲子園の難しさや重みを監督になってから実感するようになりました。」
数々の敗戦と成長を繰り返し、ようやく掴んだこの夏。そこには、積み重ねてきた歳月の重みがある。
ーーー「チャレンジャーである自覚」
全国の舞台に挑むうえで、選手たちに一番伝えたいことは「チャレンジャーである自覚」だという。
「甲子園では、シードも関係ないし、うちは全国的に見ても強いとは言えない。だからこそ、挑戦者の気持ちで立ち向かおうと。佐賀大会ではプレッシャーもあったけど、甲子園では“自分たちより強い相手と戦う”という姿勢が何より大切です。」
加えて、本村監督が強調するのが“平常心”。
「甲子園の雰囲気は独特なので、いかに浮き足立たず、いつも通りのプレーができるか。それを普段から意識しようと話してきました。」
ーーー自分たちで考え、動くチームに
練習再開後のグラウンドでは、選手たちの目の色が変わってきたという。
「甲子園のピッチャーやバッターに通用するようにという意識で、スピード感のある練習に取り組んでいます。“もっとレベルを上げたい”という思いが行動に表れているし、そこがこのチームの良さでもあります。」
本村監督が就任当初から掲げてきたのは、“考える野球”だ。
「どんな場面でも、選手が自分の頭で考えて動けるようにしたい。そのために私も指示は出すけれど、それを受けて自分たちで実行できることが大事。状況は一球ごとに変わる。だからこそ、常に頭を働かせるチームでありたいんです。」
ーーー鳥栖戦の逆転が生んだ自信
今大会のターニングポイントを尋ねると、準決勝の鳥栖高校戦が真っ先に挙がった。
「今大会で初めてリードを許す展開でした。でもそこでしっかり逆転して勝てた。あの試合が、選手たちにとって大きな自信になったと思います。」
その“自信”こそ、全国の強豪に挑む上での武器となる。
ーーー“がばい世代”に託す、もう一つの物語
今の3年生たちは、奇しくも2007年──佐賀北が全国制覇を果たした年に生まれた世代だ。彼らが今、甲子園への切符を手にしたことに不思議な縁を感じている。
「選手たちは案外意識していないのですが、いざ振り返ってみると甲子園の切符を今の世代が掴めたというところには何か縁を感じますね。」
ーーー「まずは一勝」喜びの輪をもう一度
目指すのはもちろん勝利だが、本村監督はその先にある“感謝”と“喜び”を見据えている。
「せっかく甲子園という舞台に立てるのだから、まずはその場を思いきり楽しむこと。そして野球ができることへの感謝を持って戦ってほしい。まずは一勝。その瞬間、選手たちが心から笑っている姿を見たいですね。」
あの夏、佐賀北は“がばい旋風”と共に全国を席巻した。
今度は、自分たちで考え、行動し、掴み取ったチケットを手に、ふたたび聖地へ。
再び吹き荒れるか、あの風の再来──。佐賀北高校、2025年の夏が、幕を開ける。
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